「俺、沢田ちゃんの宇宙になるよ」
 ロンシャンがまた訳の分からないことを言い出した。既にこの面倒くさい人の扱い方を熟知している俺は、教科書を鞄に押し込みながら、へぇ、とだけ返事をした。
「沢田ちゃん、ねぇ、いいでしょ」
 俺の前の席に、俺の方を向いて座ってロンシャンは、いつも以上に瞳を輝かせながら俺の顔を覗き込む。はぁ、いいけど、だいたいその、俺の宇宙って何。そう尋ねると、ロンシャンはよくぞ訊いてくれましたとでも言いたげに胸を張った。
「沢田ちゃんはボンゴレのボスで、ファミリーがいて」
「うん、まぁ、ボスっていうか、ファミリーっていうか」
「ボンゴレの頂点に立ってるわけじゃない」
「うん、まぁ、そういうことになるね」
「つまり沢田ちゃんは地球ってわけ」
 ……論理が飛躍した。

 ロンシャンが言いたいのはつまり、ボスという存在は、ファミリーの面々を抱えている、守っているという意味で、地球のようなものなのだ――ということ、らしい。
「それで、何でロンシャンは俺の宇宙になりたいの」
 うん、それはねぇ。ロンシャンはとても満足そうな顔をして自論を説き始めた。このときの表情は純粋な子供のようで、俺は結構好きだったりする(本人には言わないけれど)
 そこからは何だか長ったらしい、理解できない演説が始まったので、俺はロンシャンの興奮したような表情を観察しながら半分ほど聞き流していたのだけれど、不意にこの言葉だけがはっきりと耳に飛び込んできた。

「地球と火星は完全に別物で、絶対に交わらないでしょ」
 ねぇ、沢田ちゃん聞いてる?今さっきの一言で我に返った俺は、うん聞いてるよ、と慌てて返事をした。
「地球から火星は見えて、火星から地球は見えるけど、ただそれだけで、仲良くしたり喧嘩したりお互いを守るなんてこともできないし」
 あぁそうか、それはつまり。

「だから俺が宇宙になって沢田ちゃんを守るよ。俺の宇宙にふわふわ浮いてる沢田ちゃんをね」
 好きだよぉ沢田ちゃん。
 ロンシャンはとびきりの笑顔で、鞄の上に置かれていた俺の手をぎゅっと握る。
「ねぇ、いいでしょ」
 自慢するような、許可を求めるような、どっちでもあるような台詞だった。

 ――どうしてそう、いつもの笑顔でさらっとそんな恥ずかしいこと言えるかなぁ。

「……でもさ、ロンシャンから俺は見えるけど、宇宙は広すぎて俺はロンシャンが捉えきれないかも」
 ロンシャンは一瞬きょとんとした後、また笑顔になって言った。
「いいんだよ沢田ちゃんが分かんなくても、俺が沢田ちゃんを守りたいんだ」
 こいつは、自分がどれだけ歯の浮くような恥ずかしい台詞を吐いているのか分かっているのだろうか。その純粋さが時々羨ましくもあるけれど――それにしたってこの台詞、男に向かって吐く台詞とは到底思えない。
「俺は宇宙みたいに大きな男になって沢田ちゃんを守るから」

 ねぇ、いいでしょ。
 自慢するような、許可を求めるような、どっちでもあるような台詞だった。

 俺は既に半ば呆れていたのだけれど、ロンシャンのまっすぐで邪気のない笑顔を見ていたら、なんだか全てどうでもいいような気がしてきた。毒されたのかもしれない。自分で自分に苦笑する。
「うん」
 俺はどっちの意味も込めたような込めないような、曖昧な返事をひとつだけ返した。ロンシャンは満足そうに笑って、俺の手をぎゅっと握りなおした。












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ロンシャン好きだ



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