家が近所で幼稚園から一緒のツナは、胸も尻もペタンコのままのくせに、いっちょまえに他の女子と同じように制服のスカートを短く捲り上げて、その裾をヒラヒラさせながら歩く。元々ちょっとどんくさいツナは、移動教室とかで友達に置いていかれそうになると待ってよ〜とか言いながら小走りで追いかける。スカートが大袈裟にヒラヒラ。そのヒラヒラを見るたびにちょっと腹が立つ。女の子ですってアピールされてるみたいで何か嫌だ。俺の中のツナは、幼稚園のとき一緒に泥だらけになって遊んでたあのツナのままなのに。いつの間にそんななっちまったんだろ。
女子のスカートが無駄にヒラヒラすると、女子のヒラヒラするスカートが大好きな男(大概の男はヒラヒラするスカートが好きである)はつい目で追ってしまう。それはクラスで一番可愛いと噂される笹川のそれは勿論、例え胸や尻を含め全然女性らしくない上にどんくさいツナだって例外じゃなかった。俺だって健康な中学生男子である。友達に呼ばれてなに〜と駆けていく後ろ姿の、最近ちょっと短くなってきたスカートのヒラヒラを、自分の席から頬杖を着きながらぼんやり眺めていた。
「見すぎ」
背後から声をかけられた。
「黒川か」
「沢田のこと見すぎよ」
俺の呼び掛けを無視し、そう指摘する黒川。
「変態」
おい、いきなり変態はないだろう変態は。それに誤解だ。ツナに対してのシタゴコロはあまりない。何せ幼稚園から一緒なのだ。ちょっとスカートがヒラヒラしてきた位では、ツナを女として意識するには到らない。
「スカートのヒラヒラに対する条件反射だ」
「スカート?」
「黒川のスカートがもっと短かったら、黒川だって知っててもチラ見ぐらいはする」
「キモい変態」
キモいがついた。まぁいい。黒川は男に夢見すぎ。
「あら」
黒川の声に顔を上げると、ちょうどツナがこっちにパタパタ走ってくる所だった。
「黒川〜、京子ちゃんが呼んでる」
俺の席の手前までやってきて、ツナは言った。
「ありがと……ねぇアンタ、それスカート何回折ってるの?」
「え……三回くらい? 変かな?」
「変じゃないけど短くない? 変態に見られてるわよ」
「変態?」
ツナが首を傾げる。俺は知らん顔をしてそっと視線を反らした。
それにしても、ツナのスカートがこんな風に短くなってきたのはいつからだっけ。最近全然話してねーなぁ。幼稚園とか小学校のときみてーに仲良くできねーのかな。無理か。多分だけどツナはこれからもっと女らしくなって俺ももっと男らしくなる。そしたら余計に、昔みたいに対等では居られない。少し寂しくもあった。ツナと遊んでるときが一番楽しかったのになぁ。
「……ツナが男だったら良かったのに」
俺はぼそりと呟いた。それを聞いたツナは目をぱちぱちさせると、顔を真っ赤にしてぷりぷり怒ってどっか行ってしまった。どたばた走るもんだからスカートがヒラヒラ。あ、パンツ見えそう。
「……あんた、最低」
黒川の心底呆れたというような口調が全てを物語っていた。俺は何かマズったらしい。
「あの子が将来美人になっても知らないんだから」
言い残して黒川は行ってしまった。何なんだ。女ってよく分かんね。
美人。ツナが美人ねー。想像できねーなー。それに美人になって彼氏とかできたら余計に仲良くなんて無理じゃん、やっぱりツナが男だったら良かったのに。それに俺の中ではツナは、短いスカートをヒラヒラさせてるよりも、片手には虫かごを持ってもう片方は俺と手を繋いで、山道を駆け回っている方がやっぱりしっくりくる。
「それじゃダメなんだよ山本のバカ」
すれ違いざまにツナにそう言われたけれど、俺には何がダメなのか全然分からなかった。やっぱ女ってよく分かんねー。
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山本に女として意識してもらいたいツナと鈍い山本