「お、おぉ、俺とけっ、結婚、してくださいっ!」

 目の前の少年は泣きそうな顔でそう叫んだ。大学の中庭だったので、行き交う生徒たちがチラチラと横目でこちらを伺っている……ちょっと待て、何だこの状況。
 少年は目じりに涙を湛えて、顔を真っ赤にしていた。浴びせられる好奇の目。あれ、何か俺が泣かしたみたいじゃね?
「えっと……とりあえず、場所、変えるか?」
 俺は慌てて少年の腕を引いて、一つの建物に入った。

 ことの始まりは昼休み、黒川花からの電話だった。
「あぁ山本? 何か、あんたに会いたいって奴がいるんだけど」
 彼女は俺の中学時代のクラスメイトだ。たまたま同じ大学の同じ学部に進学したので、テスト前にノートを貸して貰う程度の仲ではある。それから彼女は、俺の知り合いということで、よく他の女の子と俺との仲介役を頼まれていた(俺は野球で甲子園に行ったりしたもんだから、ちょっとした有名人なのだ)。だから今回もそういうことなのだろうと、安易な気持ちで中庭に向かった。
 しかし呼び出されてみれば、どうやら黒川一人のようだった。いつもと違う違和感を感じながら黒川の前まで行くと、彼女はやれやれといった心境を前面に押し出した表情で、自分の背後に声をかけた。
「ほら、来たよ」
 その言葉に恐る恐る顔を出したのは、女の子ではなく……。
「……え?」
 大きな瞳を不安げに揺らした、小柄な少年だった。

「黒川さんにはさっき会ったばっかりなんです」
 俺が山本くんを探しているって言ったら、知ってるっていうから、呼び出してもらったんです。
「突然すみませんでした……」
 沢田綱吉と名乗る少年は本当に申し訳なさそうに肩を落とした。

 食堂に移動した俺たちは、正方形のテーブルに向かい合って座っていた。午後で、しかも講義時間ということもあり、食堂内の人は疎らだ。
 ここに来るまでの短い間に、俺は沢田の情報を最低限だけれど引き出していた。俺と同い年で、市内の違う大学に通っているということ。住んでいる場所も、その大学の近く。進学と同時に一人暮らしを始めたらしい。
 きょろきょろと辺りを見回して落ち着かない様子の彼を、俺はテーブルに頬杖をつきながら観察した。俺と同い年……の割に、背、低かったな。細っこいし。男の中ではどっちかというと、可愛い部類に入るんだろうな。

「で、何――」
 俺は周りの様子を伺いながら、声のトーンを抑えて尋ねた。
「……その、結婚って」
 沢田はまた顔を真っ赤にして、あたふたし出した。
「あの、それは、すみませんでしたっ!」
 一息で叫んで、ぺこりと頭を下げる。
「父さんに言われて来たんです……俺、よく知らなくて、それで、詳しいことは山本くんのお父さんに聞いてみろって……」
 沢田は小さな身体を更に小さくして、視線をそわそわ宙にさ迷わせている。
「……親父、か」
 俺は携帯電話を取り出して、電話帳から自分の家である寿司屋の番号を探し出した。今の時間だったら店は忙しくないから、電話をすれば親父が出るはずだ。
 通話ボタンを押し、数回のコール後。威勢のいい声が携帯から聞こえてきた。
「あ、親父? 俺だけど、なんか今沢田って奴が、」
 そこまで聞くと、親父は一人で勢いよく喋り出した。
 あああー沢田んとこのか、いやぁー若い頃にな、餓鬼が出来たらウチに嫁に寄越せーなんて言っててなぁ、冗談のつもりだったんだが沢田は本気だったみてぇだな、まぁ丁度いいじゃねぇか武、俺ぁ早く孫の顔が見てぇぜ、おっと仕込みがまだ残ってるから切るぜじゃあな!

「え、ちょっと!」
 ちょっと待て聞け親父!
 ……孫は無理だ!

 無情にも電話は切れ、俺は携帯を握りしめたまま呆然としていた。沢田は項垂れた姿勢で、上目遣いで俺の様子を伺っている。
「……ごめん、ね」
 しょんぼりという表現がぴったりな沢田は本当に本当に申し訳なさそうに呟いた。それから改めて背筋を伸ばして、俺に向き直り、一礼をする。そして一言。
「俺と、結婚してください」

 ――何だ、これ?












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ツナ→山本の珍しい設定で



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