一緒にいて楽しいな、とか、もっと一緒にいたいな、とか勝手に思ってる分には、その人の自由なんだと思う。ただそれに相手が応えてくれるか、って問題は、また違う次元にあるんだろう。
そこからどうしたいって訳じゃなく、その先どうなりたいって訳じゃなく、お付き合いがしたいとかキスがしたいとか触りたいとかエッチがしたいとかそういうことでも全くなく、ただこのまま一緒にいてくれるだけでいいからずっと離れないでいて欲しいな、って相手に思うのは恋じゃなくて好意なんだろうか。同性相手に恋してますは変だけど、好意寄せてますなら許される?
「友達が気になる、ってこと、山本にはある?」
二人で下校途中、なんとなしにそう訊いてみると、山本は変な顔をした。
「何、ツナ、好きな奴いんの?」
その顔が少しだけ険しかったので、俺は少し戸惑った。俺はただ、俺の抱いている感情は変なのか、誰かに聞いてみたかっただけなんだけど。それに俺が気になってるのは山本なんです、なんて、口が裂けても言えないし。だから勿論、カマをかけているつもりではない。
「いや、好きっていうか、もっと一緒にいたいな、とか」
山本にツッコまれ、しどろもどろになってしまった俺は俯く。
「……ふーん」
自分から訊いてきたくせに妙に素っ気ない返事が帰ってきて、俺は少し悲しくなった。山本にそういう話しちゃ、いけなかったかな。
「別に、変ではない……」
途中で言葉が止まったので、俺は不思議に思って山本を見上げる。山本は無言で俺をじっと見つめていた。
「……キスしてみる?」
はぁ?
「なんでそーなんの」
「ツナの好きな奴ってツナの友達なんだろ? だから、友達とキスできるかどうか、俺とテスト」
山本が妙に真剣な顔で迫ってきて、俺はじりじり後退った。
「いいじゃん別に、減るもんじゃねーし」
そうかもしれないけど、でも、そこでムキになることないじゃん! 聞く耳を持たない山本は俺を壁際にどんどん追い詰めて、とうとう俺は逃げられない状態になってしまった。
「ツナ」
山本の顔がゆっくり近づいてくる。待ってよ俺は確かに山本とずっと一緒にいたいなって思ってるけど別にこんなことしたい訳じゃない! そう心の中で叫んだときには遅かった。キスの仕方なんか分からない俺は、キスされる、と思った瞬間ぎゅっと目を瞑って顔を反らし、何とかやり過ごそうとした。
……が、何とかならなかった。少し湿った柔らかい感触が一瞬唇に触れて、離れた。ホントにキス、されたのか。されちゃった。今、山本に。時間にして約一秒。
恐る恐る目を開けると、真剣な表情で俺の顔を覗き込んでいる山本の顔がすぐ側にあって、びっくりした。混乱で声も出ない。
「……なぁ、俺んち寄ってかね?」
「へぁ?」
思わぬ提案に、変な声が出た。
「なぁ」
念押しというよりは既に脅しが入っているような、山本の鋭い視線。え、俺何か悪いことしたかな、やっぱ地雷踏んだのかな。視線に促され、俺はコクコクと壊れた人形みたいに頷いた。山本はちょっと怒ってるみたいに、黙って俺の腕を取って歩き出した。
「ちょっと、山本、ねぇ」
山本は前を向いたまま、やっぱり怒ってるみたいな口調で言った。
「別に、変じゃねぇよ、ずっと一緒にいてぇとか思う相手が友達だってなんだって、」
だって俺なんか友達とヤりてぇなんて思っちまうしな。
え、今さらっと凄いこと言った? 山本は俺の手首を振りほどけそうにないほど強い力で掴み、ぐんぐん進んでいく。逃げられない。
どうやら俺と山本の気持ちにはお互い少しズレがあったみたいだ。そう、例えるならばまさに砂糖とグラニュー糖、好意と恋のような……ん?恋?
俺の本能が緊急事態を報せている。頭の中に響く警告音。赤いランプを想像。
どうやら俺は完璧に地雷を踏んだようだった。そりゃ俺の気持ちに応えてくれたら嬉しいなって思ってたけど、でもこんな結果は望んでないよ!
「あんま人前で好きとか言わねぇ方がいいぜ、ツナ」
俺みたいな奴もいることだしな。
俺を振り向き、にやりと笑った山本のその言葉に、俺の想像上のランプはバキッと音をたてて壊れた。
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こんなはずじゃなかった!