「恋患い」

 急にぼそりと言われて、どきりとした。

「ってか?ツナ」
 さっきとは打って変わった表情で、山本は笑う。

「ツナ、食欲ないから」
 そういや最近溜め息もよくつくよなーと言いながら、俺の弁当箱を指す。
 あー、うん。俺は箸をくわえたまま、そうはぐらかした。
「溜め息つくし、キョロキョロしてる」
 何か探してんの、休み時間。そう指摘された。どうやら観察されていたようだ。

 山本はハッとして言った。
「まさかツナ、妖怪が見える……!」
「んなわけないだろ!」
 どんな発想だよ、もう。

 こう見えて山本は実はカンが鋭い。何も考えていないように見えるのは全てフリで、実は全てのことを理解し、自分なりの考えを持っている。俺の彼に対する評価はそうだった――の、だが。
 こんな様子じゃ、気付いてないだろうなぁ。

 ――視線をキョロキョロと忙しなくさ迷わせるのは、君の姿を探すためと、君の視線から逃れるためなんだよ。
 今食欲がないのだって、いつも一緒のはずの獄寺君がいなくて屋上で二人きりで、緊張して仕方ないからだ。

「妖怪見えたら楽しいだろーな」

 ――この能天気な友人に、俺の気持ちが伝わる日は来るのだろうか。

 黙って玉子焼きをつついた俺を見て山本は、ははっ、と、すごく楽しそうに笑った。

「俺、気付いてるぜ、ツナ」
「えっ、何に」
 言われて俺はたじろぐ。しかし、心配は無用だった。

「ツナ、霊感あるんだろ」
 幽霊が見えてんだ!と山本は元気よく言った。だから、そんわけないだろ!
 むきになって否定する俺の頭を山本はぐしゃぐしゃと撫でる――そう、すごく楽しそうにしながら。

「もう、山本のバカ、もう知らない、もう喋らない」

 これ以上いじられると、照れくさくて恥ずかしくて困る。適度にはぐらかして(邪魔して?)くれる獄寺君、いないし。俺は視線を合わせないようにしてそっぽを向いた。

「ツーナ」

 まるで猫か何かを呼ぶときと同じような声のトーンで、山本は俺を呼んだ。そっぽを向いたまま、なんだよ!と投げやりに返す。

「俺、ホントは知ってんだ」

 その言葉と同時に、世界が半回転。
 視界に映るのは青空と、山本の顔のアップ。

 山本は、もうそれはすごく楽しそうな顔をして、言った。

「ツナ、俺のこと好きでしょ」








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