ドアをやや乱暴にノックする。数秒後、ドアを開けてくれたのはまた雲雀さんだった……けれど、俺の険しい表情と後ろにいるロンシャンを見て何か悟ったのか、十センチほどしか開いていなかったドアは全開にされた。
「……逃げても無駄みたいだよ」
 雲雀さんは静かに呟いて、俺たちの横を抜け部屋を出ていった。それと同時に部屋の奥から出てきたのは――。

「山本さん……」

 一週間ぶりに会った山本は黙ったまま、ばつが悪そうに視線をドアの斜め下に落としていた。
「逃げて、ってどういう……、」
 反復して理解した。
 ――山本は意図的に俺を避けていた。
 その上であんな訳のわからない実も蓋もない噂を垂れ流したままにして、あまつさえ認めただって?
「……あんたも俺を馬鹿にして、からかってただけなのかよ……!」
 俺はすっかり頭に血が上ってしまっていた。だからここが寮で、山本の部屋で、他の生徒も普通に生活している空間だということをすっかり忘れて思いっきり叫んだ。
「あんたなんか大嫌いだ!」
 心臓がきりきりして痛い。喉の奥がひりひりして痛い。頭がくらくらする。そのどれもを振り払うかのように俺は駆け出した。ロンシャンが俺を呼ぶ声がしたけれど知るもんか。悔しい、悔しい、悔しい、悲しい。誤解のひとつも解けないままだった。肝心なところは最後まで解らずじまいだった。山本は俺をどうしたいんだろう?分からなかった。



 辿り着いた先は食堂だった。廊下と一繋がりになったフロアにはテーブルがランダムに配置されている。ここは寮の一番端に位置するので、食事の時間しか人が集まらない。今も照明は落とされ、入ってくる灯りは廊下の蛍光灯と大きな窓からの月明かりのみだった。何も考えずにここへ来てしまった。無我夢中で逃げてきて……って、逃げてきただって?俺は自分から山本に宣言したんじゃないか、大嫌いだ、って……。
 ――そんなの自分でだって分かってるんだ、ただ山本に裏切られた気がして、酷く打ちのめされていたのだ。俺のことを助けてくれた山本。助けてくれると言ってくれた山本。考えてみれば本当のことなんて何にも分からない。俺の本当も山本の本当も噂の本当も。
 俺は肩で息をしながら食堂の奥へと進んだ。適当なテーブルに手をついて息を整える。食事の時間は賑わっている食堂も夜は静かなもので、遠く部屋の方から楽しげな笑い声が微かに聞こえてきた。薄暗い人気のない食事に一人でいる自分と笑い声とのコントラストに俺は酷く虚しい気分になる。部屋へ戻らなきゃ。でも何か気まずい。ロンシャンに何て言おう。
 その時の俺は暫く襲われていないことも相まってすっかり油断していたのだ、だから人気のない場所に迂闊に一人で足を踏み入れたことに対して何とも思わなかったし、何より頭の中がメチャクチャでそれどころではなかったのだ。



 突然背後から口を塞がれ、同時に腕が背中側へ捻り上げられてものすごく痛い、痛い痛いギブ!この状態でそんなことは言わせてもらえるわけがなく、俺はあっさりと上半身をテーブルの上へ押し付けられてしまった。口を塞いでいた手が頭へ移動。有無を言わさぬ力によって、俺はひんやりしたテーブルの上へ頬を押しつける恰好にされてしまった。

「ちょっ……! 止めろよ!」
 俺は叫ぶものの、しまった。ここは食堂だった。声なんか届くものか。後悔先に立たず。絶望する俺の背中にそいつがのしかかり、俺の耳をべろりと舐めた。熱くてぬるっとして気持ち悪い。のしかかられた拍子に、そいつの股間が俺の尻に当たった。固い感触に、久しぶりに寒気がした。
 そいつは俺の背中にのしかかったまま片手で俺のベルトを乱暴に外す。抵抗しようにも腕は後ろに回らないし重いし胸が押し潰されて呼吸が苦しい。足をバタつかせるも無駄な抵抗だった。そいつはベルトを外し終えると今度はボタンを外しチャックを下げ、ズボンとトランクスを一緒にずり下げた。突然下半身を外気に晒された俺は縮み上がる。しかも突然その縮み上がったものを触られうひゃあと変な声が出た。
「ちょっと止めろって、止めて、気持ち悪いっ!」
 俺は叫ぶも全く無駄な抵抗だった。そのくせ他人に触れられることに慣れていない性器は、やんわり触られると少し反応してしまう。死にたくなった。生理的な嫌悪感と、意に反した身体の素直な快楽の間で板挟みになって気持ち悪い。

 辛抱強く扱き続けてくれたおかげで俺の性器はそれなりに勃起してしまった。相手はいつの間に脱いだのだろうか、さっきから臨戦態勢のソレを俺の尻の割れ目をなぞるように擦り付けている。その頃になると俺は抵抗し疲れてテーブルの上に上半身を預け、低く唸っていた。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。でもここじゃ、誰かが助けてくれるなんて希望も見いだせない。助けてほしい。……山本。ふと思い出したけれど、俺はさっき山本に啖呵を切って出てきたのだった。それなのに頼るなんて馬鹿みたいだ。山本。噂。山本と付き合ってるって。本当に付き合ってたんなら俺のバックバージンを奪うのはこんな意味不明な変態じゃなく山本だったはず……って馬鹿か俺は!こんな時に何を、って本当だよ、こんなことになるんなら山本とする方が良かった山本としたい、大嫌いだって言ったけど本当は嘘なんだよだってこんなに山本に助けて欲しいし山本助けてくれるって言ったじゃん馬鹿!
 俺の中に理不尽な怒りが沸いてきた。丁度そのとき背後でごそごそやっていた男が片手で俺の腰を掴み、もう片方で自らのものを支えているのだろう、いよいよ俺の穴に凶器の先を押し込み始めたので、それで俺は思いっきり吹っ切れた。

「離せ……っ、嫌だぁぁぁぁぁぁっ!」

 大絶叫。男は慌てて俺の口を塞いだ。びっくりして息子の硬度が下がったみたいだ。ざまぁみろ。男は俺を黙らせるため、再び俺の腕を捻りあげた。痛い痛い痛い!

「貸し一つね」

 ヒュンゴッ、みたいな音がしたと思ったら、男が俺から離れて背後に倒れた。どうやらヒュンは風を切る音で、ゴッは風を切った雲雀さんのトンファーが男の頭にヒットしたときの……って、あれ?

「……雲雀さん……?」

 思いがけない人物の登場に、俺は上体をへたれさせたまま呆気に取られていた。起き上がろうとしたら今度は両足に力が入らなくて床にへたりこんでしまう。ああ、怖かったんだ、俺。
 雲雀さんは殴り倒されたままうんともすんとも言わない男の首根っこを掴み、ズルズルと引きずっていく。俺は咄嗟にこう尋ねた。

「あのっ……! 俺にタオル投げてくれたの、あれって雲雀さんですか……?」

 雲雀さんは立ち止まってちらりと俺を一瞥した。

「……貸しは一つじゃ足りないみたいだね」

 そう言い残し、雲雀さんは食堂から出ていく。ズルズルと男が引きずられる音に混じってパタパタと忙しない靴音が聞こえていることに気がついた。その音は段々大きくなってきて、雲雀さんが出ていくのと入れ違いに足音は食堂へ踏み入った。そして俺の名前を呼ぶ。

「……ツナ……!」

 それがあまりにも待ちわびた声だったので、俺は聞いた途端に泣き出してしまった。
 山本はそんな俺をきつく抱き締めて、泣き止むまでそのままでいてくれた。



第8話(裏)
第10話


続きは18禁なので裏ページに移動しました
アダルトシーンのある次とその次(8と9)を飛ばしてもお話は繋がるようになっています
アダルトシーンの苦手な方は8と9を飛ばしてください










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