自分のベッドがこんもりと盛り上がっているのを見て、部屋に帰ってきた俺は苦笑した。
 ベッド脇に立って、その白い羽布団製の山に耳を近づける。静かな呼吸音を確認。
 すると突然、そこから長い腕がにょき、と生えてきて、俺を抱き締めた。

「ちょ……」

 バランスを崩してベッドに倒れ込む。
 羽布団がもぞもぞ動いて、見慣れた顔が出てきた。

「ツナ、お帰り」

 それはこっちの台詞、と突っぱねてベッドから起き上がろうとするが、俺の背中に巻き付いた二本の腕がそれを許さない。

「離してよ――山本」
「嫌だ」

 何かの動物のように、俺の胸に頭を擦り寄せる。あぁ、あれだ、大型犬。

 離してくれそうにないので、俺は抵抗を諦める。
 山本は俺の頭やら背中やらを撫で回したあと、満足げな顔で笑った。


 任務の後、山本は必ずと言っていいほど俺の部屋に来る。
 それは成果の報告のためじゃない。(いや、勿論報告はしてもらうのだけれど)
 俺がいるときはしつこいくらい俺の名前を呼んで、俺の反応を見て満足したところで帰っていく。
 俺がいないときは今日のようにベッドに潜り込んで、そのデカイ図体を丸めて俺の帰りを待っている。
 その理由は、彼が言うには「だってツナのベッド気持ちいいんだもん」……だそうだ。


 口にこそ出さないけれど、彼の笑顔の裏には沢山の憂いが詰まっているであろうことを、俺は知っている。
 マフィアの世界と一番遠いところにいたのは彼なのだから。
 内側で処理しきれなかった感情を、ここでこうやって発散しているのだろう。
 それが何となく分かるから、俺は拒んだりしない。


 山本は俺をベッドの中に引きずり込んでぎゅうと抱きしめた。
 暑い。

「ツーナ」

 甘えるように頬を擦り寄せる。


「俺、ツナと一緒にいたいだけでこんなとこまで来ちまったのな」

 どうしよう?といつもの笑顔で笑った。


 その変わらない笑顔を見たら、あぁ何か俺がどうしようだよ、と思って切なくなって、山本の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめ返した。
 あの日屋上で、野球が出来なくなりかけたために自殺しようとまでした彼が今は、野球とは程遠いこの世界の、俺の傍に居てくれている。
 山本を救っているようで、救われているのは俺の方だ。『引き込んでしまった』罪悪感は、この笑顔が洗い流してくれるから。
 山本はいつだって変わらない、俺のヒーローだ。


 山本はそんな俺の反応に、今日はツナ積極的なのな、なんて馬鹿なことを言って、俺の頭をくしゃくしゃとかき回した。








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