一日だけでもよかったんだ。人間になりたかった。ツナを抱き締めて励ましてやりたかった。ツナの笑顔が見れないのは悲しい。ツナが悲しいと俺も悲しい。ツナが笑顔でいてくれなきゃ俺、死んでも死にきれない…って、言ったよな、神様。俺はツナのこと大好きなんだ。なぁ神様、俺を人間にしてくれた神様だったら出来るよな。ツナの願いを叶えてやってくんねーかな。俺の願いを中途半端に叶えてツナの願いを叶えてくんなかったあんたなら、この願いも叶えてくれると思うんだ。お願いだよ神様、ツナが笑顔でいてくれなきゃ俺、死ぬより辛い。
朝。バタバタと騒がしく階段を駆け降りてくる音が聞こえたと思ったら、ガチャリと玄関の扉が開く音まで聞こえた。
「武!」
驚きと喜びが入り交じったような声で俺を呼ぶツナ。
「ああもうどこ行ったかと思った……あ、あのね、武、母さんが、戻ってくるんだって! 仲直りしたんだって!」
ツナは弾んだ声で俺に説明をしてくれた。母さんは父さんとリ何とかしたわけじゃなくて、喧嘩してベ何とかしてただけなんだとか。人騒がせだねぇと困ったように言いながらも声は嬉しそうだ。俺も嬉しくて尻尾を振ろうと思ったんだけど、身体が重くて動かない。
「……武?」
ツナが俺を呼ぶ。頭を撫でて、抱き起こしてぎゅっと抱き締めてくれた。あれ、ツナ、昨日はあんなにちっちゃかった筈なのに。
でも完全に寝ちまう前にその報告が聞けてよかった。やっぱ神様はいるんだよツナ。俺の願い、叶えてくれたみたい。ツナが、母さんと父さんは夕方に帰ってくるから、帰ってきたらお祝いしようねって言ってる。夏休みには海に行こうねって言ってる。ああでも、ごめんなツナ、それまで俺、起きてられるかなぁ。ツナは黙って俺の頭を撫でてくれていた。俺は人間になってツナとキャッチボールをしたしお風呂に入ったし一緒に寝たけど、やっぱりこの時間が一番好き。ツナ、好きだよ。大好きだ。声に出しては言えなかったけど。
――何だか周りが騒がしくて、俺は目を覚ました。
……あれ、目を覚ました?
「武、」
何だか泣きそうな顔をしたツナが俺の顔を覗き込んでいて、俺と視線が合った途端にボロボロ涙を溢して本格的に泣き出した。
「あーほら、ツッ君、泣かないの」
ツナの隣でそう言ってるのは母さんだ。その一歩後ろには父さんもいて、笑っている。
え?
「ずっと寝てるから心配したんだよ」
よくよく周りを見てみれば、辺りは薄暗くなり始めていた。そういえば今朝、ツナが父さんと母さんは夕方に帰ってくる、って。じゃあ、俺って。
――……どうやら神様とやらはどこまでもひねくれているらしいのだ。何だそれ。俺、それなりに覚悟してたつもりだったのに。
父さんと母さんが帰ってきてツナが笑顔になるのなら俺は死んでもいいって、お願いしたのに。
俺は生きているらしい。
「ありがとね、武」
ツナは鼻をすすりながらそう言って笑った。やっと笑ってくれた。嬉しい。俺は顔を上げて、頬を舐めた。やっぱりしょっぱかった。
end
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