ツナは俺のことがスキだと言った。よく分からなかったけれどツナが泣きそうな顔をしていたのでつい、いいよなんて言ってしまった。ツナはそれでもちょっと不安そうな顔をして、本当に、なんて念押しをする。俺は黙って頷いた。どんな顔をしていたか自分でも分からない。それでもツナはぱあっと笑顔になったので、失敗ではなかったのかな、と思う。
 そのツナのいうスキが何を意味しているのか俺は訊けなかった。友達の親友のそれじゃ駄目なのか。スキって恋愛感情のスキなのか。ツナはそういう趣味だったわけ?なんて、それはあまりに無粋な質問だ。とうとう訊けないと思った。女の子に対して思うスキと同じだったら、ツナは俺とデートとかしたいと思うんだろうか。手を繋いだり抱きしめあったりキスしたりセックスしたいなんて思っているんだろうか。なぁ、セックスってどんなことするのか知ってるのか。俺に抱かれたい(いや抱きたい?)なんて思うのだろうか。
 こっち側に背中を向けて寝ているツナを起こして、なぁ教えてよ、なんて尋ねることはできなかった。そんなことを言ったらツナはまた戸惑って、泣きそうな顔をするだろう。誰のものでも泣き顔は見たくないけれど、ツナのは他の誰のそれよりももっと見たくなかった。ツナの泣き顔が嫌いとかそういうんじゃなく、なんだか体中がムズムズする感覚に襲われるから。
 ツナのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。優しいし思いやりがあるし、本当はすごい奴なんだってことも俺はちゃんと知ってるつもりだった。でもツナが告白してくるなんて夢にも思わなかった。俺はツナを恋愛対象として考えたことがなかったから。
 好きだと言われて返事をしてしまった俺はツナと付き合ってることになるんだろうか。しかしあれから特別に変わったことはないし、今ツナは俺の隣で寝ているけど、お互いの家に泊まるなんてことは前からだった。付き合っていたとしてもこれから先、今までと何を変えたらいいのか分からなかった。なぁ、お前は俺に何を求めているんだ。何してやったらいい。天井を見つめていた俺は寝返りをうってツナのほうを向いた。
 豆電球のオレンジの光の下、ツナの背中が見えた。小さくて細っこくて男の中でも可愛い部類に入る。俺の親友。なぁ、目をうるうるさせた親友に告白された俺の気持ち分かるのかよ、わかんねぇだろ、ツナ。胸から喉の奥にかけてムズ痒いような感覚に襲われた。口から手を突っ込んで掻きむしりたい衝動に駆られるけれど、出来ないことに苛々した。
 もし恋人なら俺にはツナをどうこうする権利があるはずで、ツナが言い出したんだから、ツナには俺を拒否する権利なんてないはずだ。お前、俺のことがスキだって言ったって、俺がどんな奴か分かってんのかよ。付き合った途端、酷いことするかもしんねーじゃんか。苛々にかまけて衝動的に、その細い肩をどうにかしてやろうと思った。それでツナが俺に失望したとしても構わないとさえ思った。
 静かに身体を寄せて背後から抱き締めた。ツナは起きていたらしく、一瞬ぴくりと身体を震わせた。
「……なぁ、恋人同士ってどんなことするか、わかってんの、ツナ」
 唇を耳元に寄せて、腰を抱き寄せる。思ったよりずっと細かった。腕の中に収めた身体は小さく震えていて、罪悪感がした。
「――分かってるよ」
 小さな声が聞こえた。抗議するような声だった。抱き締める腕の力を少し弱める。
「……一緒に遊んだりとかお互いの家に泊まったりとかだけじゃなく、その先どんなことするのかだって、ちゃんと、わかってるよ」
 それから消え入りそうな声で前置きのように、ごめんね、と呟いた。
「……やらしいことだって、山本とだったら、したいって、思うんだ」
 ごめんね、ごめんなさい。虚空に向かって、今にも泣き出しそうな声で呟くツナ。何で謝るんだよ、俺が悪いんじゃん、俺どうしたらいいんだよ。何がそうさせるのかわからなかったけれど胸が締め付けられて、思わず強く抱き締めていた。俺はその震える肩をどうこうできるほど大人ではなくて、切なさを紛らわすようにツナの背中に額を押し付けた。








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