いつものように彼の頭を撫でようとして、自分の手が血塗れなことに気付く。
 このまま触ったら、汚れる。
 茶色いふわふわの髪が、誰のものか分からない血でべっとりと頭皮に張り付く光景を想像して、途中まで伸ばした手を引っ込めた。
 ツナはそんな俺を黙って見ていた。俺と視線が合って、微笑む。頑張って笑顔を作った。そんな微笑。
 その顔を見たら余計、どうしても彼に触れたくなって、スーツの裾で手を拭った。でもそのスーツも血塗れだから、上手くいかない。撥水加工の馬鹿野郎。シャツでも拭った。拭いきれなかった血は乾いて、手にこびりついていた。
 彼は微笑んでいた。しかしその目は潤んでいた。大丈夫だと言って頭を撫でてやりたかった。けれど、手についた血は取れなくて、それが叶わない。悲しくなった。

「山本」

 消え入りそうな声で彼は呟いた。そのまま抱きしめられた。体格的には、抱きつかれた、という表現が正しい。
 おい、ツナ、そんなことしたらお前汚れちまうよ、意味ねぇじゃん。
 俺の胸辺りに顔を埋めていた彼が、その顔を上げた。案の定。撥水加工の馬鹿野郎。俺のスーツに付いていたものが移って、彼の顔の右側、額から頬にかけて血がべっとりついてしまっていた。
 血をべっとりつけた顔で、彼は微笑んだ。

「おかえり、山本」

 その目は潤んでいて、今にも涙が零れてきそうだった。彼は、自分が傷つくことはいとわないが、仲間が傷つくことを恐れる。だからその涙の、微笑みの意味は、俺を咎めるそれではなくて。

「……無事でよかった……」

 呟いて、彼はまた俺の胸に顔を埋めた。
 咎められるかと思っていた、血塗れな理由を。ああそうか、それでも彼は俺を許してくれるんだ。俺はここに帰ってきてもいいんだ。気付いた。
 俺はさっき引っ込めた手を再度伸ばして、彼の頭を撫でた。手に付いていた血はいつの間にか乾ききっていて、彼の髪を汚すことはなくて、安心した。

「ただいま、ツナ」








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