好き好き大好き超愛してる。そんなド直球ドストレートド真ん中の言葉で俺を攻め続けてきた山本が、ぴたりと好き好き大好き超愛してるを言わなくなった。山本がピッチャーだったら直球しか投げられないんじゃない、とからかったのが悪かったか、いやでもあれはだいぶ前の話だ。今でも根に持っているとしたら相当の執念深さだ、と俺は少々引いてしまうだろう。けれど山本は好き好き大好き超愛してるを言わなくなっただけで、後は普段と同じだ。少し前までは学校に着いたら耳元で好きだ、移動教室で愛してる、授業中に口パクで好きだ、給食のときに愛してる、ホームルームで以下略。その好きだ愛してるの出血大サービスがぴたりと止んだ。いつも鬱陶しいとか恥ずかしいとか思っていた俺だけれど、突然ぴたりと止んでしまうとさすがに気になる。不思議だ。何かあったのだろうかと勘ぐってみるけれど、それ以外は普通だから余計に変だ。

 家に帰ったら母さんがテレビに向かって泣いていた。ツッ君このドラマ切ないのよと母さんは俺に訴える。どうやら古いドラマの再放送のようだ。実は両思いなのに、男の方が女になかなか告白できないばっかりに、女が他の男と結婚してしまうという、ベタ中のベタ、それこそド直球ドストレートド真ん中の話だった。

 好きだ愛してるを口に出して伝えることはそんなに大事なのだろうか。いちいち確認しないといけないものなのか?形がないものだから不安になるのよとテレビの中の女が言った。そんなもんなのだろうか。

 触発された訳でも不安になった訳でもない。だって山本の態度は以前と変わらないのだ。でもやっぱり気になるので俺は山本を注意深く観察してみた。好きな人が出来た……わけではなさそうだ。相変わらずベタベタしてくるし、スキあらばキスしようとしてくるのも変わりない。じゃあ何だろう、ただの気分?それとも好きって言うのに疲れた、とか。そんなことあるのだろうか、よく分からない。山本の考えていることは大概分からない。

 気になり出したら止まらない。好きだ愛してるがないのに相変わらず山本はキスしてきたり抱き締めてきたりする。変な感じだ。ド直球ドストレートド真ん中が山本じゃないのか。そわそわする。

 多分山本のこの行動には何か意味があるんだと思う。山本は俺に構って欲しいのか、時々変なことをする。俺は山本の企みに気付いても、いつも気付かないふりをする。そうして寂しくなった山本が自らネタばらしするのを見届けるのだ。
 でもこれがその“企み”の一つであるなら悪趣味だと思う。山本のストレートで分かりやすい部分は山本の性格として根幹的なもので、絶対に変わることはないと思っていたのに。

「……何のつもり」
 だからもう少しで唇が重なろうかというとき、俺は痺れを切らした。山本の顔を手のひらで押し退ける。山本は目をぱちくりさせて俺を見ていた。

「……言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」
 別に好きだとか愛してるを言葉で欲しいなんて言うつもりはない。けれど俺に愛想つかしたとか他に好きな人が出来たとか好きだ愛してるを言い疲れたとか、そういう事情があるならちゃんと言ってよ。
「……いきなり言わなくなったから、気になるじゃん」

 言わなくていいことまで言う羽目になってしまった。こんなの自分から言うなんて恥ずかしい。それもこれも山本のせいだ。

 山本は再度目をぱちくりさせたけれど、すぐに満面の笑みを浮かべてこう言った。

「な、嫌だった?」

 “嫌だった”?――多分、山本が好きだ愛してるを言わなくなったことが、だ。嫌だっていうより何か裏があるのか気になっただけ……あ。
 山本は嬉しそうな笑顔でこっちを見ている。そうか、意図っていうか裏っていうか企みっていうか、これって。

「俺、ずっと言うの我慢してんだけど」

 引っかかった、騙された、心配して余計なことまで言っちゃった!――やっぱり山本は山本だったのだ。心配して損した、何だか悔しい。

「言って欲しい?」

 山本がとうとうそんなことを言い出したので、俺はそっぽを向いてやった。山本はなぁツナどうなんだよと言いながら俺に絡んでくる。うるさいなもう顔覗き込まないでよ、多分今真っ赤だ。
 こうなったら何が何でも黙っててやろうと思う。そのうち我慢できなくなってすぐにまた言い出すんだろう。俺からなんて絶対言ってやらないんだ。








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