山本がキレた。
事の経緯は分からない。多分獄寺くんがいつものように、何かけしかけたんだと思う。いつもなら笑って流す山本がなぜか今回ばかりは、キレた。しかも静かにキレた。口角は上がっているけれど、目が笑っていない。俺が気付いたときには一触即発の雰囲気で、俺は慌てて二人の間に割り込んだ。ちょっとやめて二人とも。背の低い(自分で言ってて悲しくなる)俺が割り込んでも、二人の視線は俺の頭上で火花を散らしたままだ。俺は怯えていた。二人はなまじ顔が整っているぶん怒ったときの顔はものすごく怖い。二人の間に挟まれて俺はオロオロするばかりだった。二人は黙って睨み合っている。どうしよう神様助けて。
ここはやっぱ十代目に決めていただくのが筋じゃねぇのか。獄寺くんが低い声で呟いた。ああ、いいぜ。山本が返す。え、俺?何で?
「十代目(ツナ)!」
突然、獄寺くんの左手で右肩を、山本の右手で左肩をがしっと掴まれた。二人とも目が怖い。痛い怖い怖い。
「ツナは俺と獄寺のどっちが好きなんだ?」
は。山本の言葉を一瞬理解できなかった。どっちが?好き?何だその質問。冗談かと思ったんだけれど、回答を待つように俺を見つめる二人の目は笑っていない。うわ、本気かよ。変な汗が出る。
「どっち、なんて、え、選べない」
俺は言葉に詰まりながら何とか答えた。どっちも俺の大切な人だ。どっちかなんて選ぶのも烏滸がましいくらい。それは純然たる本心だった。
「十代目、それじゃダメなんです」
どっちが好きなんですか。獄寺くんが詰め寄ってきた。近い怖い近い。その後ろで山本がさっきより怖い顔をしていた。怒ってる。むしろ殺気立っている。何でだ。怖い怖い怖い。
どっちを選んでもアウトだ。本能で察知した。俺は勘だけはいいのだ。勘だけは。
「ど、どっちも、好き」
ホントに、獄寺くんも山本も好き(だからもうやめて)。俺が必死で訴えると、二人は十代目(ツナ)がそういうなら、ということで渋々ながらも納得した。ああ、よかった。
しかし杞憂だった。事態はまたも、恐らく当事者であろう俺を置き去りにして、次のステージへ突入した。
でもさー三人で付き合うって言ったってデートんときまで三人でいたら意味ねぇよな。俺だってお前と一緒なんざ死んでも嫌だ。じゃあ交代にするか、一日交代な。え、何が?交代?っていうか付き合うって、誰が?
二人は俺を放ってジャンケンを始めた。山本が勝った。よっしゃ。山本がその場でガッツポーズ。獄寺くんは自分の拳を見つめながら心底悔しそうな顔をしていた。
山本はとびきりの笑顔で俺に近づいてくる。両肩を力強く掴まれた。
「明日、ツナは俺の恋人な!」
なんですって?
「十代目、明後日は俺ですから!十代目のこと大切にしますから!」
なんだって?
二人とも何を言っているのか分からない。それ何語?宇宙語?
どうやら俺の知らないところで何かが始まったらしい。全く理解できていない俺を尻目に、さっきとは打って変わってご機嫌な山本と、不愉快だけれど仕方ないみたいな顔をしている獄寺くん。でも喧嘩しないでいてくれるのなら、いいかなぁ。
見上げると山本と目が合った。山本は爽やかな笑顔を俺に向けてきた、が、いつもと同じそれではなかった。俺は気付いてしまった――その瞳の奥底で何かギラギラしたものが蠢いていることに。
俺は背中に変な汗が伝うのを感じながら、自分の未来を案じたのだった。
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こいつら好きだ