冬の朝の空気は凛と透き通っていて、身体中の熱を奪っていく。アルコールのせいで浮いた頭を冷やすにはうってつけで、ツナの算段はきっと正解だったんだろうと思う。遅い夜明けをゆっくりと待つ間に、俺はだいぶどうでも良くなっていて、さっきのやっぱナシで、って思わず言いそうになるくらい後悔し始めていた。
酔った勢いでツナに好きだと言った。酔った頭じゃなければそんなこと言えなかった。俺らはずっと友達で、しかも男同士。それが恋人になるなんて、自分で考えても何だか座りが悪い。一方ツナは冷静だった。あの時のツナは十分酔っていた気がしたけれど、多分俺があまりに変なことを言い出したから酔いが吹き飛んでしまったんだろう。冗談で笑い飛ばしてくれればまだ良かったのに、ツナは曖昧な返事をしたままそれっきり黙った。
公園のベンチに並んで腰を掛けてぼんやりしていた。俺はツナの方を見なかったし、ツナからの視線を感じることもなかった。ツナはずっと黙りこくったままで、俺との距離を測っているみたいだった。沈黙を埋めようとして俺はいつもみたいに下らない話をしたけれど、ツナは曖昧な返事をするだけで会話が続かない。ツナに話そうと思って取っておいたとっておきの面白ネタも、乾いた笑いと白い息と共に空中分解した。
ツナは、頭を冷やした俺が正気に戻って、わりぃさっきの気にしないで、と言い出すのを待っているように見えた。そして俺がそう言うまでこの状態でいるつもりなんだと思う。俺の頭が冷えるまでずっと待つつもりだ。
さっきの本気だから、と改めて言い直すことだってできた。けれどそう言い直すには、俺の頭はすっかり正気に戻っていた。ツナの算段は正解だった。さっきの自分はどうかしていたとさえ思う。ツナと向き合う自信が今の俺には、ない。
空が白んできた。始発も出る頃だろう。帰らなければいけない。
「さっきの話」
長い沈黙の後に俺が口を開くと、ツナは小さく頷いた。
本気だから、と言うこともできた。けれど今の俺は、その返答を受け止めるだけの余裕をとっくに喪失していた。勇気を奮い立たせるだけの気力もない。
「忘れてくれ」
一息置いてから、ツナはうん、とだけ言った。そこで漸く隣を振り向くと、どこか寂しそうな、でも安心したような表情をしていたから、これで正しかったんだと思う。
友達でもその先でもないその時間は決して心地いいものではなくて、でも次に酩酊した俺と一緒に居てくれたときには、少し期待するかもしれない。困らせてみたくなったんだ。好きだよ。嘘じゃない。嘘じゃないけど、素面じゃ言えそうもない。冷えた冬の空気がこの気持ちまで冷やして、二度とほどけないように凍らせてくれたらいいと思った。
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