待っていた。俺の手の中で携帯がブルブル震えた。待っていた。俺は今世界で一番情けない男かもしれない。俺の中では少なくとも、そうだ。携帯を開いて、待ち侘びた文字列を確認する。
「今日ヤりたい。いい?」
この内容の文章の最後に必ず「いい?」がついていることに気がついたのは、つい最近のことだ。ダメと言ったらどうするつもりなのだろう。ダメなんて言えないのだけれど。だって俺は待っているのだから。こうして彼の方から声をかけてきてくれるのを。
俺を抱いているときの山本は俺が見た山本の表情のどれよりも必死の形相をしていて、俺はいつも怖くなる。でもそのうち気持ちいいのと気持ち悪いのとで頭の中がごちゃごちゃしてきて最後にはどうでもよくなる。下半身はドロドロに溶けてなくなってるみたいですごく気持ちいいのに、心臓あたりがスカスカしてズキズキしてすごく気持ち悪い。山本に抱かれたい女の子なんか幾らでもいるはずなのにどうして俺なんだろうとか、もしかしたら女の子は付き合うとか別れるとか面倒だからなのだろうかとか、俺なら黙って言うこと聞くからだろうかとか、そこまで考えているならその通りで、俺は山本の誘いを拒否したりなんか出来ないのだけれど、とにかくそんな感じで何で俺山本とセックスしてるんだろうって思ったら胸がキリキリして涙腺がブルブルしてくるんだけど、それを山本に知られたくなくて俺は必死でシーツを握りしめるのだ。だって俺は山本が好きだからセックスの相手になることだって厭わない。例え付き合ってるわけじゃなくても山本が俺のこと好きじゃなくても。
指先が白くなるくらい握りしめていた。頬をシーツに擦り付けて、腰を掴まれて揺さぶられて、口から唸り声とか変な声とかが勝手に出て、気持ちよさか気持ち悪さか分からないけれど、俺はいつの間にか泣いていた。
慌ててシーツで涙を拭ったけれど、シーツを引っ張る不自然な動きでバレたようだった。山本は俺の顔を覗き込む。嫌だとかめんどくさいとか思われたくなかった。思われてしまったら俺はもう、山本に抱いて貰えないんじゃないかと思ったからだ。
「泣くなよ、俺、泣いてる奴苦手なんだよ」
ごめんと言ったつもりなのに失敗して、中途半端な嗚咽になってしまった。苦手なんて言うから、山本は泣いてる俺がウザいのだと思った。けれどその言葉に反してその口調はいつもよりもっと優しくて、余計に涙が止まらなかった。
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