俺・沢田綱吉(高校一年生男子)の災難は、この中高一貫教育かつ全寮制の男子校に編入してきたことから始まった。ネジが一本抜けた母親と育児放棄の父親に育てられた俺は、親がそうである分だけそれなりにまともに育ち、それなりの中学に入学してそれなりの高校に進学した。が、しかし。

「ツッ君、明日からママはパパの所に行くから」

 という何ともクレイジーな発言を残して、母親は父親のいる海の向こうのどこかの国へ行ってしまった。そうして取り残されてしまった俺は全寮制のこの高校に編入。簡単な流れはこうだ。



 しかし本当の災難は編入の経緯ではなく、学園生活そのものにあった。

「ちょっと、何すんだよ、止めろって!」

 俺は今、一人の男に押し倒されていた。下半身にまとっていた布という布はこいつに引っぺがされ、赤ちゃんがおむつを変える時のようなあられもない格好にされて色々大変で、しかも大変なところにこいつの無骨な指が一本、入……入ってるよね、これ。
 男は指をぐいぐい突っ込んでくる。それはもうぐいぐいぐいぐい。指一本くらいなら意外と入るもので、多分第一関節ぐらいまでは入ったんじゃないかな……って、そんな場合じゃなくて。

「離せっ、気持ち悪い、俺はホモじゃないっ!」

 そう俺は至って普通の男の子である。前の高校には普通に好きな女の子が居た。転校するのが嫌だったなぁ。その子が「ツナ君、たまにはこっちに遊びに来てね」って言ってくれた時の顔が今でも忘れられなくて……って、話が飛躍した。とにかく俺はホモでも何でもないんだけれど、中高一貫教育でしかも野郎ばっかりってことが災いしているのか、どうもこの学校はホモ率が高い気がする。「沢田さぁ前の高校共学だったんだろ、女の子紹介してくれよ」なんて言い寄ってくるクラスメートはまだいい。それより俺のケツを狙ってくる何だかよく分からない名前さえ知らない奴の多いこと多いこと、背が低くて童顔で悪かったね。狙われる度に、この容姿を馬鹿にされてるみたいで腹が立った。
 そして今日も誰も居ない夕方の教室、教卓の後ろで、俺は知らない男にアララなところを犯されそうになっている。必死でもがくも全然駄目、びくともしない。相手は馬鹿みたいにガタイがいい。女の子が居ないからって穴があるなら男でもいいってか畜生、突っ込むお前は良くても俺は良くないんだっつーの!

「やめろっ、抜け、離せ、嫌だぁぁぁぁぁっ!」

 俺は絶叫した。その声の大きさに男は慌てて、もう片方の手で俺の口を塞ぐ。俺の言葉はもがもがという変な音になって口の中で飽和した。畜生、何で、指抜いてチャック下ろすな、無理、無理だから……!



「嫌がってんだろゴーカン魔」

 男がはっとして顔を上げた。男の影になってよく見えなかったけれど、教室の入り口の所に誰かが立っていた。その人は一歩教室に踏み入れた。廊下の窓から差し込む夕日が逆光になっていて顔は分からない。俺の上に乗っていたゴーカン魔はいそいそと俺から離れ、慌てて教室のもう片方のドアから逃げていった。突然のことに俺は頭がぼんやりして動けない。
 と、足をおっぴろげたまま固まっていたことに気付いて、慌てて飛び起きる。慌てて股間を両手で押さえると、ばさりと降ってきた何かで俺の視界は真っ暗になった。

「顔、見られたくねーだろ? それお前にやるから」

 じゃーな、と言い残して、その人は教室から出て行ってしまったらしい。足音が遠のいていった。頭から被っていた何かを引っ張り落としてみる。大きめのスポーツタオルだった。
 何が何だか分からなくて、俺はズボンを上げるのも忘れてその場にへたり込んでいた。



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