目覚めてすぐ、押し入れの中から中学校の卒業アルバムを引っ張り出した。山本って三年の時は何組だったんだっけ。その存在を確かめたくて、アルバムをぺらぺら捲っていく。前の方のページはクラスごとの集合写真と部活ごとの集合写真、それから学校行事の写真。その後に一人一人の写真がある。

 一組から順番にチェックして最後のページまで見たけれど、山本の写真はどこにもなかった。

 いつものように迎えに来てくれた獄寺くんに再度訊ねた。
「そんな奴いましたっけ?」
 獄寺くんの返答は以前と変わりなかった。本当に分からないみたいだった。
「どうして覚えてないの? 背が高くて野球部で、クラスで目立ってたじゃん、あんなに!」
 思わず詰め寄っていた。獄寺くんは面食らった様子で、少し考えた後にやっぱり覚えていないと言った。

 俺がおかしいのかと思った。山本武という人物は俺が夢の中で作り出した架空の人物だったとでもいうのだろうか。確かに、そう考えたら辻褄が合う。山本が夢の終わらせ方を知っているのも、俺の望んだものを意識的に与えてくれるのも、当たり前だ。
 けれどやっぱり、それは違うと思った。山本は俺の欲しいものを与えてくれるけれど、俺が山本を操っているというより、山本が俺の心を読んで、それを叶えてくれている……そう考えた方が近い気がした。こんなにもどかしいのは山本が俺のものじゃないからだ。それは山本が俺の生み出した架空の存在じゃないということの何よりの証拠でもある。

 俺の記憶の中には確かに山本がいる。その実在を確かめたくて、下校途中のその足で、卒業以来近づいたこともなかった出身校に向かった。

 そこで漸く俺は、山本の「今」に辿り着いたのだ。





 山本は口元に薄く笑みを浮かべたまま黙っている。

「おかしいんだよ、夢ならどうして内容をハッキリ覚えてるんだ」

 それでも山本は言う。
「夢だよ、ツナ」
 俺は必死に首を振った。
「違う……」
 すると山本は浅く息を吐いて、眉間にシワを寄せたまま笑った。山本のそんな表情を見たのは夢の中が初めてだ、とふと思う。俺が覚えている山本はいつも笑っていて、こんな表情をする人じゃなかった。

「……分かった、ごめんな……次に目が覚めたら、ツナは夢の内容を忘れてるから」

 山本はそう言って腰を曲げて、いつもみたいに俺にキスしようとした。夢から覚めるときにいつもする仕草。

「嫌だ、」

 俺は咄嗟に顔を背けた。忘れたくなんかない。

「ツナ」

 山本は途方に暮れた様子で俺を見つめていた。俺は一歩後退して呟く。

「……山本にとって、俺の存在は誤算だったね」

 その言葉に、山本は反応した。俺の手首を捕まえて捻りあげる。もう片方の手で顎を掴まれた。必死に抵抗したけれど、体格差で易々と押さえ付けられる。掴まれた手首は痛くて、頬に食い込む山本の指は温かくて、やっぱり夢なんかじゃないと改めて確信した。

「夢で終わらせてなんかやらないからな!」

 俺は喚いた。

「俺はちゃんと覚えてるんだから、俺は山本がっ……、!」

 そこから先は言えなかった。無理矢理上を向かされて噛みつくようにキスをされた。意識がゆっくり混濁していく。

 その唇の感触を忘れる頃に、俺は自分のベッドの上で目覚めた。












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